「第58回 放射線環境・安全に関する研究会」印象記
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「地震とラドン:歪む大地はラドンを吐くか」という演題で神戸薬科大学 安岡由美准教授による講演が 2025年10月25日ナディアパーク デザインセンタービルの名古屋市市民活動推進センター集会室で行われた。講演では阪神・淡路大震災を含む巨大地震の発生に先立つ地下の変動と大気中ラドン濃度の異常変動についての研究が紹介された。
ラドン222は岩石中の天然ウラン238が崩壊して生じるラジウム226を親核種とする放射性元素で、地震発生前に地下の割れ目や地殻変動によって放出されることが知られている。大気中ラドン濃度の異常変動は、地震の前兆現象として注目されており、地震予知の手がかりとなる可能性がある。
1995年の阪神・淡路大震災をもたらした兵庫県南部地震(M7.3)では、神戸薬科大学の放射線施設の排気モニターが地震発生の約2か月前から大気中ラドン濃度の異常な上昇を捉えていた。
この異常値は地震発生後に平年レベルに戻った。 当時、大気中ラドン濃度と地震の関係はほとんど知られておらず、データの重要性が認識されたのは震災後であった。この経験をきっかけに、演者の神戸薬科大学の安岡由美准教授と東北大学の長濱裕幸教授が共同で研究を進めるようになり、大気中ラドン濃度と地震の関係を探る研究が本格化したとのことである。
その後の研究では、東日本大震災(M9地震)を含む巨大地震の発生に先立つラドン濃度の異常変動が観測されており、地震発生の数か月前から濃度が上昇し、地震後に急低下するパターンが確認されている。これらの変動は、地震に先行する地殻変動による可能性が高いとされている。
さらに、ラドン濃度の変動は震源域周辺だけでなく、広範囲にわたって観測されることがあり、地震予知の新たな手法として期待されている。
現在、演者は、全国規模で大気中ラドン濃度をリアルタイムでモニターする計画を進めている。これにより、地震発生の数か月前に注意喚起が可能になる日が来るかもしれない。
阪神・淡路大震災の経験が、地震予知研究の発展に大きく寄与したことが強調され、今後の研究の発展に期待したい等、活発な議論が行われた。
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